ケースその6・薄暮写真
撮影時設定そのまま
12月に展望フロアから撮影した街並みです。撮影条件は良好でこのままでも問題はありませんが、ブルーモーメントといわれる夕方から夜に移行する一瞬の美しい時間を表現してみます。(写真を900×600に拡大)
改善点と方向性
ブルーモーメントといわれる時間が存在します。これは夕方から夜になるにあたり、風景が青みを帯びて見える時間をさします。とはいっても実際に景色が青くなっているのではなく、人間の眼がもたらす現象です。よってブルーモーメントを見た目のように写真に収めることは出来ません。 今回は肉眼で見たブルーモーメントを写真として再現してみます。
処理内容
- 青を強調し、ブルーモーメントのイメージを肉眼に合わせる。
- コントラスト、黒レベルを調整して昼夜の「隙間」をイメージする。
- 彩度を下げ、透明感をだす。
- 適度にシャープネスをかけ仕上げる。
今回は写真の方を人間の見た目に合わせてみます。また、今までのケースでは使った事のない彩度の調整も行ってみたいと思います。
1.青を強調し、ブルーモーメントのイメージを肉眼に合わせる。
前項にも書きましたが、ブルーモーメントは人間の眼によって強調されたいわば「記憶色」です。基本的に赤は暗くなると色褪せ、青は暗くなると色鮮やかになります。よってホワイトバランスを調整し青を強調します。 マゼンタに調整をかけたことには深い意味はありません。特に変更する必要もないでしょう。
- ①のボタンを押し、ホワイトバランス設定に切り替える。
- ②の色温度スライドバーを左へ。5102Kから3800Kに変更。
- ②の色偏差スライドバーを右へ。+2から+5に変更。
青みを強調し過ぎに見えるかもしれませんが、夜景においては青が強すぎてもそれほど不自然にはなりません。まして今回は記憶の色を再現しているため、このくらい大袈裟の方が面白い仕上がりになるでしょう。
調整後(調整後画像クリックで拡大)
⇒2.コントラスト、黒レベルを調整して昼夜の「隙間」をイメージする。
今回の写真は夜と呼ぶには若干明るいので、夜景らしい「黒」を強調します。その際、露出補正で暗くするのは面白みに欠けるので黒レベルとコントラストの強調によって引き締めます。
- ①のボタンを押し、調子設定に切り替える。
- ②のコントラストスライドバーを右へ。1.50から1.70に変更。
- ③の黒レベルスライドバーを右へ。0から20に変更。
調整後(調整後画像クリックで拡大)
⇒3.彩度を下げ、透明感をだす。
色というものは明度が下がると彩度は上がります。前項でコントラストと黒レベルを強めにかけてあるので、彩度は上昇し、ややクドイ印象になっています。よってここでは彩度を落としてバランスをとります。
- ①のボタンを押し、彩度設定に切り替える。
- ②の彩度スライドバーを左へ。1.00から0.80に変更。
調整後(調整後画像クリックで拡大)
⇒4.適度にシャープネスをかけ仕上げる。
最後の仕上げにシャープネスをかけ、画像を引き締めます。あまりかけすぎるとギザギザが発生するため、適度に。撮影時にブレ防止やピント合わせをしっかりやっておけば後処理でのシャープネス付加はあまり考えなくても結構です。
- ①のボタンを押し、シャープネス設定に切り替える。
- ②のシャープネスバーを右へ。13から20に変更。
完成
ブルーモーメントが人間の眼で引き起こされるものである以上、それを写真で再現するのはなかなか難しいものがあります。今回のケースはあくまで私のイメージしたものに過ぎません。(写真を900×600に拡大)
おまけ。結局ブルーモーメントとは?
人間は網膜にある二種類の視細胞で可視光線(光)を感じ取ります。明るい場所で機能する錐体(すいたい)細胞と暗い場所で機能する杆体(かんたい)細胞です。錐体細胞は長波長(赤、オレンジ、黄)の光に対する感度が高く、杆体細胞は短波長(紫、青、青緑)の光に対する感度が高くなります。 夕暮れ時は錐体細胞と杆体細胞が同時に機能していますが、徐々に暗くなっていくため、錐体細胞は徐々に機能しなくなっていきます。それに合わせて目の感度のピークが長波長側から短波長側へシフトしていきます。これをプルキンエシフトと言いますが、これによって青が強調され、赤が色褪せてくるというわけです。
では、ブルーモーメントというのは人間の記憶の中にしか存在しないものなのかというと、必ずしもそうとはいえません。本編でも書いたように色は明度が下がるにつれて彩度は上がっていきます。青空が暮れていくにつれ青みが増していくのです。いわばブルーモーメントというのは自然現象と人の生理現象が融合した「青いプレゼント」といえるでしょう。